とっても退屈していた。
 暇つぶしにテレビを付けたら「BGMが聞こえなくなるから消してくれよ」って言われるし。
 庭に行って花壇でもいじろうかと思ったら「背もたれがほしいんだぞ」ってせがまれて、僕の右半身に重たい背中を預けてくるし。
 じゃあ最後の手段だってウォトカを飲もうとしたら「あとでセックスするときにトイレの回数が増えるだろ」って瓶を隠された。
 アメリカ君はでぃーえすだかぴーえすぴーだか変な小型のゲームで、それはもうつかの間の休日を満喫しているかもしれないけど、ちょっとは僕の休息を手伝ってくれてもいいんじゃないかな。手伝わなくたっていいんだよ、君がちょっとどいてくれればそれだけで。
 バルトの3人がそろって座っても窮屈を感じさせないソファの端に追いやられて、右肩にアメリカ君の後姿がのせられる。僕とは反対側へ足を投げ出す君はリラックスしてるんだろうね。
憎たらしいからコルコルしてもいいかな。

「変な呪文を唱えていないで、どうせなら何か話してくれよ」

 コルコルを実践してたら止められた。
 さっきはテレビを消せって言ったのに僕のおしゃべりは構わないの?本当に君はよく分からない子だね。

「そうだなあ・・・ああ先週ね、フランス君の家に遊びに行ったんだ。そしたらスペイン君もいて。あの二人って仲がいいんだね。トマトのシャーベットを僕に作ってくれたよ。もちろんフランス君が。スペイン君はトマトトマトトマトってずっとトマトの艶と味について熱弁してた。どんなことを言ってたのかあんまり覚えてないけどね」

 あれ、美味しかったなあ。フランス君の料理の腕とスペイン君の愛情をたっぷり受けたトマトだもの、美味しくないはずがない。

「フランス君の家に一泊した次の日は、イタリア君の家に寄ったんだ。でもイタリア君はいなくて、ロマーノ君だけだった。弟ならジャガイモ野郎のところだちくしょーって口を尖らせてたよ。彼をよく見たらさ、白いワイシャツの胸から下がぐっしょり濡れてて、どうしたの?って聞いたら皿洗いしてた、って。不貞腐れた表情の顔をぷいって背けられちゃった。その日は午前中イタリア君で・・・じゃなくてイタリア君と遊ぼうと思ってたし、予定がなくなったからロマーノ君と皿洗いの続きをしたよ。今思えば、どうして僕は彼らの家の皿洗いをしたんだろうね」

 ロマーノ君とおしゃべりするのは楽しかったから、まあいっか。
 彼ら兄弟の頭から生えるくるんとした謎のアホ毛が結構違うって発見もあったし。

「それから一昨日は・・・んうっ」

 姉さんのところに、そう続けようとした僕の口をアメリカ君の手が覆う。
 君が話してくれって言ったんじゃない。僕がこんなにおしゃべりすることってないんだよ。
 あんまり使わない筋肉を一生懸命動かして頑張ってる最中なのに。

「もういいよ」

 って不機嫌な声が漏れる。右を向くと、ぷくりと膨れた彼の頬が見えた。
 アメリカ君の太ももの上に置かれたゲームから、爆発するような効果音が聞こえて、黒い背景にGAME OVERの赤字が浮かぶ。
 唇に当たる邪魔な手を振り払い、少しだけふんぞり返って口を開いた。

「ゲームオーバーになったからって僕にあたらないでよね」

 そうしたら、いつもの間抜け面がアホ面に進化した。しかも、はぁ、って小ばかにするような溜め息まで吐かれて、これはもうコルコルを再開するしかないよね。
 思い立ったらすぐ行動。低い声でコルコル言ったら、アメリカ君の身体がのっそりと動いた。

「君ってどこまで馬鹿なんだい?」

 アメリカ君だけには言われたくない。
 そう言い返そうとしたけど、言葉が音になる前に、今度は唇に邪魔をされた。冷たい眼鏡のフレームが頬に触れて、思わず肩が跳ねる。いつの間にか放り出されたゲームが床に落ちる音がして、僕の背中はソファに沈んでいた。

「んっ・・・ね、・・・っ重い、から・・・退いて・・・っん」

 拘束するように手首を掴まれて、圧し掛かる身体を押し退けることもできない。僕の方が大きいのに。悔しいから口の中を勝手に愛撫してくる熱い肉を噛んでやった。

「痛っ!何するんだい!」
「君が言っていい言葉じゃないよね、ね?」
「OK、俺に構ってほしくてしかたないんだよな。じゃあベッドに行こうか、ロシア」

 会話がかみ合わないまま、掴まれたままの手首へ更に力が込められ、半ば引きずられるように寝室へ連行される。
 メタボと罵られるその正体が筋肉だって知っているけど、ヒーローの君はこんなことに活用しないで、外に出てご老人の荷物でも持ってあげたらいいんじゃないかな。まったくもう。




20100606