アメリカの家で行われたG8会議はなんの実りも結ばないまま終了した。
2泊3日、小さなホテルを貸しきって行われたというのに。嘆いてはみたものの、そういえばいつものことだったと考えを改める。
イタリア、日本の2人はアメリカでもう一泊し、明日は本場ネズミーランドに繰り出すのだと先ほどからはしゃいでいる。保護者役も兼ねて付き合わされるドイツは疲れきった様子で二人を眺めていた。
「高カロリーの大味料理はもうたくさん!美味しいご飯が食べたい」と愚痴をこぼしていたフランスはさっさと帰路につき、カナダの家に寄ってメイプルをもらう約束をしているイギリスは「カナダーどこにいるんだー」とホテル中を探し回っている。
そんな中、アメリカが荷物をまとめて家に帰ろうとしているロシアを呼び止めた。
「なあロシア、ちょっとこれを聞いてみてくれないかい?」
「なあにアメリカ君、会議終わったし早く帰りたいんだけどな」
アメリカの手の中にはりんごマークがついた銀色のメディアプレイヤーが。イヤホンを差し出されたので、面倒くさそうに受け取った。真ん中の凹んだ部分を親指で押して再生する。
聞こえてきたのはロシアの声だった。
『―フランス君―かっこいいよ―』
『―フランス君のそういうところ大好きだよ―』
2種類の台詞が延々とリピートされ続け、次第に顔をしかめていく。そんなロシアとは対照的に、アメリカは不敵に口角を吊り上げながら口を開いた。
「ロシア・・・それをどう思う・・・?」
「すごく・・・身に覚えが、って何言わせるの」
「俺の記憶に間違いがなければスーパーヒーローな俺の恋人は君だったはず、そうだろう?」
「君の記憶力じゃ心許ないけど、僕の記憶でもそうなっているから、僕と君は恋人なんだろうね」
「浮気だ!絶対に泣き寝入りはしないんだぞ!!」
「・・・僕帰る」
付き合っていられない、とまとめた荷物を持ち上げようとするが、脇から伸びてきたアメリカの手に奪われてしまう。返す気はなさそうだ。
普段であれば水道管を取り出して殴り合いを始めてもいいのだけど、さすがに3日連続の会議は疲れた。出来ることなら、当たり障りなくこの場を納めて帰りたい。
どうしようかな。
「ごめんねアメリカ君、でもそんな昔のことは忘れてよ、僕はフランス君が好きだけど君のことも大好きだよ」
笑顔を貼り付けてダメ元で棒読み気味の愛の言葉を発動するが、結構効いたらしい。アメリカは、ふくれっ面を直して頬を赤らめる。
アメリカ君のくせにちょっと可愛いじゃない、と今度はロシアがふくれる番。
「い、いや!そんな言葉じゃ許さな・・・くはないんだけど、そうじゃなくて・・・その・・・」
もごもごと口を窄めるアメリカが企てた作戦の中に『ロシアが素直に謝って好きだといってくれる』項目はなかったよう。
「今日・・・ロシアに帰らないで俺の家に泊まりにくるなら・・・荷物も返すし、しょうがないから許してあげるんだ・・・ぞ」
いつもの自信に満ちた自称ヒーローは一体どこへ。影を潜めたヒーローの変わりに、不器用ながら精一杯恋人を誘う19歳がお目見えした。もしかして会議の前からこの時のために準備していたんだろうか。
どうしよう、すごく嬉しいような気がしてくる。
「・・・荷物を返してもらわないと困るし、許してもらえないと悲しいし、仕方ないから・・・今日はアメリカ君の家に泊まることにするよ」
熱くなった頬を隠すように、マフラーへ埋めてそう呟いた。
20100606