**5日目。

「・・・Доброе утро」
「・・・Good morning」

 部屋の中に自分以外の気配を感じて目を覚ませば、いるはずのないアメリカがロシアの部屋のソファでくつろいでいた。

「僕、突っ込んだ方がいいのかな。2回目だから省略してもいい?」
「昨日みたいにロシアが勝手にいなくならないように見張っていたんだ」
「そこを聞きたいわけじゃないんだよ。まあいいや」

 ロシアが身支度を終えた頃にはテーブルの上に作りたての朝食が並んでいた。
 アメリカの前にはコーヒーと英字で書かれた新聞紙が、ロシアが座るであろう空席には紅茶とキリル文字で書かれた新聞紙が乗っていた。

「今日で5日目だ」

 朝食をつつきながら、ロシアが切り出した。

「次の休暇にまた誘うよ。諦めるヒーローなんて格好悪いからね」

 アメリカはスーツの上にジャケットを着込み、ロシアはいつものコートを羽織っていた。どう見ても休暇の最終日を過ごす緩やかな服ではない。

「あとどれくらいで出るの?」
「1時間くらいかな」
「僕もそのくらいだ」

 お互いに国があり、仕事があり、プライベートがあった。決められたスケジュールの中に、急きょ飛び込んできたのはこの不自然な5日間の方だ。タイムリミットが迫っていた。

「次に会えるのはいつになるんだい。何ヶ月も会わないと、俺が君を好きなことを忘れそうだ。もちろん忘れるのは俺じゃなくてロシアが、ね!」

  愚痴を漏らすように頬を膨らせたアメリカを見るために新聞紙へ落としていた顔を上げる。手探りで紅茶のカップを掴んで残っていた一口をこくりと飲み込んだ。

「あぁ。もういいや」
「なにがもういいんだい」
「きみのことを好きだよ。アメリカ君には言ってなかったけど、ちょっと意地悪して内緒にしていただけなんだ」

  なんでもないような顔で付け合せのサラダにフォークを突き刺した。

「what?」
「きみって鈍いよね。たぶん食生活に問題があるんだよ」
「・・・いつから、だい」
「そんなことを聞いてどうするの」
「本当に俺が好きなのかい?」

 アメリカの表情は怪訝の一言。ロシアの言葉を全く信用していないようだった。

「どうしてそこを疑うのかな」
「だってロシアが俺を好きだなんて信じられないんだぞ」「その気持ちなら、つい最近、僕も嫌というほど味わったよ」
「・・・俺はアメリカ合衆国だぞ」
「うん」
「男・・・だよ」
「うん。きみの胸はぺったんこだし脚の間に僕と同じのが付いてるけど、アメリカ君が好きだよ」

  腰を上げて椅子の上にバサリと新聞紙を投げ置いた。アメリカが座る方へ回り込みぐいと顔を近づける。

「きみだって分かってるのかな。僕はロシアだし、男なんだよ。きみが僕を嫌いになる理由ならたくさんあるけど、好きになる理由なんて何一つないと思うんだ」
「・・・そういうところは好きじゃない」
「僕だって・・・こんな僕は嫌いだよ。だから、分からないんだ。どうして僕に好きだっていうのか」

 覗き込んだスカイブルーにロシアが映り込む。なんだか汚してしまうそうで、そう思ったら指先が凍えた。ふいと視線を逸らして後ずさりすると、アメリカに腕を捕らえられた。

「俺の想いはロシアが無理に理解することじゃない」

 ロシアの腕を掴んだ手は子どもみたいに温かかった。じんわりとアメリカの熱が這い上がってくるようで、マフラーに隠れた喉元がひくりと震えてしまう。
 掴まれた手はそのままに、もう片手で眼鏡を取り去り視線を合わせれば、戸惑い不安げな自分が見えた。

「俺に愛されていることを覚えていれば十分さ」

 先に引き寄せたのはきっとアメリカの方。自然と折り重なった唇は、優しく撫で合うとすぐに離れた。

「・・・ふふ、それなら簡単だ」

 ロシアが上手く笑えていないことに気づいたのは真正面にいるアメリカだけ。不特定多数にふりまく笑顔は自分のものにならないけれど、この一瞬はアメリカのものだ。愛することは得意なくせに愛されることには不得意で臆病なロシアに愛おしさが募る。

「次の休暇に誘っていいんだよな」
「・・・アメリカ君が、僕とすごしたいと思うなら」