**2日目。
店にある酒をしこたま飲み続けた一団は、日が高く昇りつめたころにようやくパラパラと目を覚まし始めた。
酒の匂いを纏わりつかせたままぽつりぽつりと解散していく中で、ロシアはどうしたものかと思案していた。昨夜、というよりも早朝に残る最後の記憶で、自分の隣にいたのはアメリカだ。だから、目が覚めた今、隣で寝そべっているのも彼だろう。実際首を捻ってみれば重力に従ってさらさらと落ちるブロンドがあった。
一人で飲むのは淋しいからとアメリカにも度数の低いカクテルを煽らせ、ひと晩も付き合った。飲み始めれば会議場でのアメリカとは打って変わって、酒が抜ければ昨日の世迷言なんてきれいさっぱり忘れてしまうんじゃないかと楽観視した程にいつものアメリカだった。だけども、やっぱり世迷言の続きを演説し始めるかもしれないから、ロシアは今すぐにでも家に帰りたかった。
大切なマフラーが、アメリカの下で潰れていなければ。
「アメリカ君を起こしたくないけど、マフラーを助けるにはアメリカ君にどいてもらうしかない。持ち上げたら起きちゃうよね。どうしようかな」
あれでもないこれでもないと頭を悩ませるが、寝起きではいい解決案が浮かばなかった。
「じゃあな、アメリカのことは頼んだぞ」
頼みの綱であるフランスも、その一言を残しイギリスとスペインを抱えて帰ってしまい、店には二人だけ。結局、自分の首からマフラーを解いてアメリカに乗せてから、近くに倒れた椅子を起こして腰を下ろす。致し方がない。ぼんやりと視線を漂わせ、のんびりとした時間を享受した。
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「あーよく寝た。何時だろ」
誰に問うでもなく呟いた。そう言えば寝不足だったんだっけ、と一人ごちる。
「おやつを食べる時間だよ」
どこからともなく聞こえてきた答えに目を瞠る。
「なんだって!早く起こしてくれよ・・・ってなんだいこれ・・・マフラー?ロシアのじゃないか」
「そうだよ。さあ返して」
みんなは、と口を開いたアメリカに、とっくに帰った、とマフラーを元の場所に巻きながら端的に返す。ぎし、と椅子がしなる音がしてロシアが立ち上がった。
「・・・きみは何をしていたんだい」
「別に・・・ただ、」
「ただ?」
「よく寝るなぁって見ていたよ」
ロシアの双眸はアメリカの頭上で揺れるアホ毛に向けられていた。
「・・・俺を?」
「そうだよ。本当に退屈だった」
「・・・それは、悪かったね」
たぶん赤くなっているであろう頬を見せまいとして、ふいと顔を逸らす。アメリカの素振りを気にする様子もなく、歪な織り目が付いたマフラーを伸ばすように引っ張った。
「ドイツ君がね、支払いは最後まで寝ているアメリカに任せたって言ってたよ。ごちそうさま。僕、先に出てるからね」
「・・・・・・」
言うだけ言って、言葉通りにさっさと店を出て行ってしまう。呆然とするのは一瞬で、マスターに請求先と謝罪を伝え、慌ててロシアを追いかけた。きっとロシアはアメリカを置いて帰るに違いない。
「ロシアっ!」
意図せず切羽詰まった叫びが漏れた。
「なぁに」
店を出てから数歩進んだところでひなたぼっこ中のロシアが間延びした声を返す。青く澄んだ空を煽り見る様子は、ただアメリカを待っていただけ。何か企んでいるのだろうか、そんな思いがついと過ぎり慌てて頭を振った。
「お腹が減っちゃった。きみはどうする?」
「俺だってペコペコさ」
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遅い昼食、早めの夕飯を食べ終え泊まるホテルを探してチェックインすれば、辺りはすっかり暗くなっていた。シングルの部屋を隣同士で二部屋とり、とりあえずはと二人はアメリカの部屋でくつろいでいた。
口を開かず、足を投げ出してベッドへ腰かけるアメリカ。ロシアは手持無沙汰に部屋の中をきょろきょろと眺めていた。
「ねえ、アメリカ君」
「なんだい」
「僕らって、仕事以外でなにを話して過ごせばいいんだろう」
「奇遇だね。今、俺もそれについて考えていたところさ」
しばらく無言が続き、二人は同時に溜息を吐いた。いつもの調子が出ない。そもそも二人きりでいる状態が平常ではなかった。
「マシュー君か日本君を呼ぼうよ。きみが言ったら来るでしょう?」
「日本は・・・そうかもしれないけれど、マシューはああ見えて俺の頼みなんてちっとも聞いてくれないんだぞ、他のやつらの言う事は笑顔ではいはい言うくせに俺ばっかり!」
「ふふ、アメリカ君が無理難題を押し付けるからじゃないの?」
「そんなことはないさ!マシューに直接聞いてみれば・・・ってだめだ。5日間は俺と君で過ごすんだ」
「そうだったね。ああ今夜はもう部屋に戻るよ。携帯電話の履歴が恐ろしいことになってるから・・・」
悲痛な影を背負い込んだ背中を見送るアメリカは、ロシアにかける言葉を見つけられなかった。